行政文書管理アカデミー ―行政文書管理のエキスパートを養成―

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文書管理は行政水準の指標(行政文書管理アカデミー推薦文)

元 総務庁事務次官
増島俊之

国の内外を問わず,ある時代の統治組織の考え方や活動内容を知る最も大切な手段は,保存文書をひもどくことです。それによって統治の成否のみならず,民の喜怒哀楽も知ることができます。行政の歴史を何百年,何千年と遡らなくても,わずか数年前,数十年前であっても,そのときの組織体の活動が,的確に記録され,保管され,いつでも取りだして参照することが可能であるとすれば,その組織体は,国であれ,地方自治体であれ,高い行政能力の組織体であるということができます。

なぜならば,そのような組織体は,先人の知恵を的確に積み上げることができることを意味し,また先人の失敗を反省して次の施策に生かすことができるからです。それだけではありません。行政活動に対する市民・国民の監視を容易にし,関係者の責任の所在を明らかにし,それらの者への追及を可能にするからです。

1993年8月に誕生した連立政権の細川護煕内閣総理大臣は,当時総務庁事務次官であった私に,情報公開法の立案着手を命じました。その制度立案は,それまでの数多くの部分開示立法(建築基準法,大気汚染防止法,政治資金規正法等)との関連,訴訟制度との関連など厳しい見直しを迫るものでしたが,実務的な最大問題は,それまでの各省庁の文書管理がこの法制に対応できるかということでした。法律は2001年に施行されましたが,文書管理のあり方については,まだ模索の途上にあるといってよいと思います。そのことを全国民に知らしめた事件が,社会保険庁の年金関連記録の問題でした。

これからの文書管理は,さらに複雑な様相を呈しています。文書の態様がディジタル化の波の中で一変しつつあるからです。このような状態の中で,文書について深い理解を持ち,適切な処理をなしうる職員が強く求められています。

優れた職員は,自己の研鑽だけでは生まれません。その職員の所属する組織の首脳部の深い理解と研鑽への環境を整えることが必要です。そのときに初めて文書管理の専門家が生まれます。

行政文書管理改善機構」(略称ADMiC)は,自治体における行政文書管理の改善活動に貢献している唯一のNPO法人ですが,文書管理システムの改善及び職員の指導から,さらに一歩を進めて,本年度には,記録管理の大学院として実績を持つ駿河台大学文化情報学研究所と行政文書管理学会の協力を得て,行政文書管理の専門職要員の育成を目的とする「行政文書管理アカデミー」を発足させました。全国から集まった受講者に1年間12科目に及ぶ学習と実習をインターネットと集中授業を通じて実施しているところと聞いております。

優れた文書管理専門家の誕生は,国・地方を問わず,行政水準の向上を図るものです。しかも市民・国民にとっても大きな意味のあるものです。多くの関係者が行政文書管理アカデミーの受講のチャンスを生かされることを心から願っています。