
学長 原田三朗
仕事をしながら学べる行政文書管理のスキル
公文書管理法が公布され、施行の準備が進められています。これによって、我が国の行政機関における文書管理のあり方が、大きく変わることになるでしょう。最近明らかになった沖縄返還に伴う日米の密約文書は、外務省におけるずさんな文書管理の実態を露呈した形となっています。公文書管理法が遵守されれば、少なくとも、このような失態は起こらなくなるでしょう。
公文書管理法は、国の機関と独立行政法人等の文書管理を対象としていますが、情報公開法や個人情報保護法と同じように、地方自治体も同様の条例を制定することになります。しかし、法律や条例が作られたからと行って、それだけですべての行政機関に適正な文書管理が実現するわけではありません。国も自治体も、文書管理法や類似する条例が要求する文書管理システムを構築し、それを運用するには、文書管理のスキルを身につけた多数の職員が必要です。
行政文書管理アカデミーは、全国の自治体や国の機関に在職する公務員を対象にした、このような文書管理のスキルを有する専門的な職員を育成するための研修機関です。これからの文書管理における標準装備というべきAKF(行政ナレッジファイリング)について学べる場は、この行政文書管理アカデミーしかありません。現職のまま受講できるように、インターネットと合宿集中授業を軸として1年間に100時間以上の講義と実習を行います。講義の課題を提出し、最終試験に合格した修了者には、行政文書管理士の称号を与えられます。
行政文書管理士に期待されるもの
行政文書管理アカデミーは、AKFを開発し、全国の自治体における文書管理の改善を支援しているNPO法人のADMiCが、行政文書管理を研究プロジェクトの対象としている駿河台大学文化情報学研究所の研究成果に基づいて設立した研修機関です。修了者は、行政文書管理の専門的なスキルを保有しているという証(あかし)に行政文書管理士を付与され、行政文書管理士会のメンバーになる資格があります。行政文書管理士としては、どのような職場に所属していても、文書管理システムの改革からAKFの導入や維持管理・自主管理、他の職員への支援、など多様な役割があります。
また、所属している職場を超えて、庁内全体でも文書管理の専門家としてその活動が期待されることがあるでしょう。文書管理の理論、技法、制度等は、急速に進化していますが、行政文書管理アカデミーを修了したあとも、行政文書管理士は、必要に応じて行政文書管理士会を通じて、最新の知見を得ることができます。
さらに、所属機関内で文書管理の改善等に行政文書管理士の専門能力を求められるときは、行政文書管理士会の同僚からの多様な情報を得ることができるばかりでなく、駿河台大学大学院文化情報学専攻の行政文書管理コースで修士(文化情報学)を取得卒業した、多数の駿河台大学文化情報学研究所特別研究員の支援を受けることが可能です。
公文書管理法が求める行政文書管理の基準
公文書管理法は正式には「公文書等の管理に関する法律」といい、その第1条には「国(中略)の諸活動(中略)の記録である公文書等」とあり、また「行政文書等の適正な管理(中略)を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるよう(後略)」ともあります。その目的には国などの活動を現在と将来の国民に説明する責務、つまりアカウンタビリティを満たすことも含まれます。公文書管理法がアーカイブズを重点とするような理解も耳にしますが、そうではないことは法律の条文を読めば明らかです。
公文書管理法の第2章は「行政文書の管理」で、行政機関の文書管理に求める事項が定められています。そこでは行政文書について、行政機関の「経緯を含めた意思決定に至る過程」と「事務事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができる」ように作成し、適切に整理、保存し、利用できるようにしなければならない、としています。このような要求基準を満たす行政文書管理のシステムが、行政文書管理アカデミーで集中的に学ぶAKFなのです。
いうまでもありませんが、文書管理は情報の管理です。「文書」という漢字から「文章が書かれた紙」と誤解してはいけません。紙は人類の長い経験から、保存性や記録や閲覧、伝達の簡便性が実証された優れた情報の媒体(メディア)ですが、重要なものはそこに登載された行政情報なのです。しかも行政情報は、権力の源泉です。論語に「由らしむべし、知らしむべからず」という言葉があります。孔子の言葉の本来の意味はともかく、封建時代には「人民は施政者の方針に従わせればよいので、その意義や理由を知らせる必要はない」とされてきました。施政者は情報の独占によって権力を保持できるからです。前述の外務省の日米密約の経緯からは、現代の行政官も封建時代の感覚に縛られていることが理解できます。
適正な行政文書管理の目的は、行政情報を主権者である国民が共有することです。一部の行政官が情報を独占して政策を構築することが、長期的に見て不適切な政策の選択に陥ることは、歴史が示すところです。民主社会では、国民の情報共有によって、適切な政策の形成と執行が可能になります。それには、行政機関内部での情報の共有が前提となります。そのためには、幹部をはじめ職員全体の意識改革が必要ですが、それだけでは適正な行政文書管理は実現しません。適切なシステムを構築し、運用することによって、収集した情報を管理し,必要な情報を必要な場合に,最適の条件で活用することが可能になるのです。
生涯学習機関としての行政文書管理アカデミー
わが国の行政風土の中では,文書等の処理事務が重視されなかったこともあり,専門的な知識と技法,経験を有する人材が乏しいのが現状です。必要文書の廃棄や不必要文書の保管あるいは保存文書の検索不能などの混乱が各地に起きています。紙文書と電子文書の融合を基礎とする行政文書管理システムの構築も進みません。
行政文書管理アカデミーは,このような現状を,専門的人材の育成を通じて改善しようとする現職公務員のための教育・研修機関として平成19年に発足しました。第3期生までは行政文書管理士の称号を取得しています。インターネットを利用した遠隔教育によって,業務外の時間で行政文書管理の実務を修得することができます。カリキュラムは,文書のライフサイクルの各段階での実務と理論にくわえ,公務員倫理と情報倫理およびセキュリティ,電子記録とIT技術,集合研修による徹底的な実務演習など12科目で構成されています。講師も日本で唯一のドキュメント管理大学院である駿河台大学現代情報文化研究科文化情報学専攻の教授を中心に,大学の研究者のほか,行政文書管理システムのコンサルタント,民間情報企業の幹部社員のほか,研修実績の豊かな国・県・指定市・市・町の行政文書管理専門職員を加えており,研究成果を生かすと同時に実務中心で直ちに現場に生かせる研修を実現しています。
この機会に,全国の市町村に暮らす人びと、あるいは国民や県民のためにも,多くの志ある公務員の皆さんが受講されることを望みます。

